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坂本文郎氏による2022年度吹奏楽コンクール課題曲Ⅳ.「サーカスハットマーチ」の楽曲分析です。
☆冒頭~Aまで
この前奏部分を3つのグループに分けて考えます。
グループ①:シンコペーションで始まるパート
グループ②:バスを含めて2分音符でスタートするパート
グループ③:トリルも含めて全音符の形で和声を作るパート
これらののグループがそれぞれ役割を変えながら最後に一緒になるところに特徴があります。
・グループ①はSax・Hrnでスタートし、Trpが加わり、3小節目からはHrnが抜けてFl・Ob・Clが加わる形になっています。最初から3小節目までは、シンコペーションで追いかける形がスムーズに広がるようになっているか、確かめてください。ユニゾンですので音程を整えるのは必須です。バランスの点では3小節目の2拍目までユニゾンなのに3拍目から2つに分かれることに注意してください。分かれた下の音はCl3とASax2だけですので明らかに足りなくなります。Clの人数が豊富なら3&4小節目は3rdに多くの人数を移動させると良いでしょう。4拍目の最後の音は3つに分かれますので、ここで元のパートに戻すのが賢明だと思われます。
・5小節目のFl・Ob・Clは半音階が3和音のまま動いていきます。これはかなりゴチャゴチャした印象を与えますし、テンポが重たくなったりします。同じパートに複数の人数がいたらいくつか音を抜いた方が軽快になるでしょう。PiccとFl1・EsclとCl1 のようにオクターヴになっている場合は、下のFl1 やCl1も音を抜くことが可能だと思われます。
・グループ②は最初の音が全員B音、3拍目で2つに分かれ、再び全員でDes音というように2分割とユニゾンが交互に来ます。二つに分かれると主に聴いていた音の人数が半減しますので、広がるどころかむしろ弱くなったように聴こえます。ユニゾンは音程のリスクもあります。fでも少し人数を減らした方が広がりの効果を生みます。特に4小節目の3、4拍目はcrescの効果を出すためにもその前を絞っておいた方が良いように思います。ここはセブンスのコードなのですが、主音であるC音はHrn2とTrb2しか吹いていません。増強した方が良いでしょう。
・グループ③の和声ですが、トリルは全員F音です。2小節目4拍目裏を8分音符と考え、揃えてF音で終わらせるとスッキリします。
・またグループ③は和声のバランスに問題があります。1小節目のD音はCl2だけ、2小節目のAs音はCl3だけです。さらに3小節目の3~4拍目の部分のEs音はHrn3&4しかありません。
・5小節目はHrnとTrbがグループ③に当たります。このパートの和声は木管楽器の細かい和声よりもはっきりと聴こえるように仕上げた方が良いでしょう。
・6小節目は全グループの動きが一つになって和声を作ります。Fl・Ob・Clはユニゾンです。はっきりと聴こえるのは良いのですが、音程には気を付けてください。それ以外のパートはF⇒E♭₇➡Fのコード進行になっています。FはA音が低音域にもあるのが気になります。抑えめが良いのではないかと思います。E♭₇はG音がありませんので響きにくいでしょうが、解決のFコードを綺麗に響かせることが出来れば問題ないでしょう。
・全体の音が止まった後に、HrnとSD・Cymbが残ります。Cymbが強すぎないように気を付けて、Hrnの不協和音は多少汚くても思い切って、SDの16分音符をdecrescがわかる形で演奏してください。
☆A~Bまで
この部分も3つに分けて考えましょう。
グループ①:木管が主体のメロディパート
グループ②:和声とリズムのパート
グループ③:低音のパート
ほぼ2小節単位で切り替わる強弱のキレが大切です。
・全体の強弱は強い音のブロックと弱い音のブロックを分けて、短い単位で練習するのが効果的でしょう。コントラストをはっきりさせるために、強い音から弱い音、あるいはその逆のパターンで間にcrescやdecrescを感じさせないようにしてください。
・グループ①で気を付けることは1,2小節目のようなユニゾンと、5,6小節目のように2声になっているところです。前述したように2声に分けるのは音の広がりを感じさせる目的が強いのですが実際のメロディラインの人数は半減しますので逆に弱く聴こえてしまいがちです。音程のリスクを回避するためにも、ユニゾンは少ない人数での強奏が良いでしょう。装飾音の専門家を作るのも一つの方法だと思います。2声になった5,6小節目や8小節目は下の人数がどのパートでも少なくなっています。バランス調整も忘れずに行ってください。
・弱奏の部分ではグループ①のパートは少ない人数ではっきりと強い音を出す必要があります。しかし、それでも音が薄くなった印象が出せるように前後との対比を意識してください。特に7小節目のBclは弱くすることはできません。また3,4小節のFl・Obの絡みですが、4小節目の上行形と下行形のバランスはしっかり整えてください。
・グループ②とグループ③の注意点はグループ①とのバランスにあります。バスのパートはユニゾンなので音量で負けることは考えにくいですが、Hrnが和声感を残せるか疑問です。SDと同じリズムですが、SDは抑えましょう。そしてHrnの和声をしっかり聴かせてください。
・4小節目のTrp・Trb・Xyloが加わる部分、7小節目のさらにClとHrnが加わる部分、8小節目のClが3本だけで演奏する部分は、すべて2度でぶつかる音のある例えばピエロの面白い演技を想像させるような特徴的な性質があります。ここはメロディに被さっていないのではっきりと全ての音が主張するような形で響かせてください。
・その他ではXyloとGlockenのマレットは堅めのものを使用し、音が飛びやすいようにしてください。SDはXylo・Glockenと一緒の場面は前に出て、その他の場所とのコントラストを大切にしてください。もう1ヶ所練習番号BのアウフタクトのSDはsoloだと思ってはっきり演奏してください。
・6小節目4拍目裏はSDとTuba・Cbの低音のC音、そこにHrnのF・A・Cの和音が加わります。この和音は響きが聴きとり難いと思いますので、しっかり鳴らす練習をしてください。
☆B〜Cと繰り返し後の2番括弧(2小節)
グループ①a:Trp・Trb・Eupで始まるパートと5小節目からの木管とTrp・Eupによるメロディ
グループ①b:3小節目から追いかけるHrnをグループ
グループ②:和声とリズムのパート
グループ③:低音パート
・グループ①aは最初の3小節はユニゾンです。グループ①bも3小節目の入りはユニゾンです。気を付けることはTrb・EupとHrnのバランスです。さらに4小節目になると上行形と下行形に分かれますが、練習番号A4小節目のFl・Obを強く低くしたイメージで全然違うものにならないよう気を付けてください。また4小節目4拍目は和声的になりますが、B音がHrn2にしかありません。しっかり鳴らしてください。
・5小節目からのグループ①a後半は3声に分かれます。分かれても音量に問題は出にくいと思いますが、3声で華やかに響くように意識してください。
・6小節目4拍目はその前のEコードからFコードに進行して解決しますが、第3音のA音が多数のオクターヴに散らばっているため響きにくいと思われます。ObやCl1 の高音域A音は限りなく抑えたいと考えます。
・7小節目と2番括弧1小節目の3連符+8分音符は3和音で動いているためゴチャゴチャしがちです。少ない人数でfを出した方が賢明です。また2番括弧の子の音型の直後にCl・SaxにTrp・Hrnが加わって和声を作ります。最初は2声ですぐに3声になりますからcrescで音が広がるように調整してください。
・グループ②は和声の響きを重視したいのですが、特に繰り返した後はTSaxが加わって4拍目の響きが籠ります。この時オクターブ上のObとCl3のF音はかなり抑えた方が良いでしょう。
・繰り返した後のTrb3は音が跳躍しています。2番括弧のAs➡G音はTrb3にしかない大切な音です。困難であれば6小節目の最後の音はカットしてでもAs音をしっかり演奏しましょう。
・4小節目3拍目裏からのリズムは細かい音でしかも3声です。ゴチャゴチャします。しかも重たくなります。同じパートに複数人いたら、8分音符3つで演奏させると軽くなります。また同じ動きのPercですが、SDだけ最後に16分音符があります。これもしっかり聴こえさせたいものです。
☆C~D
※練習番号Aの部分をさらに研ぎ澄ました感じで強奏とsolo主体の弱奏部分のコントラストを表現してください。
・アウフタクトを含めた1・2小節と5・6小節は、ユニゾンの低音のメロディとリズムと和声のあるその他のパートに分かれます。この2パートのバランスを考えなければなりませんが、最も薄いのがリズムの表打ちになっているBDとCymbです。メロディは人数にもよりますがユニゾンですのでバランス的に弱くはならないだろうと思います。問題は音程だけです。後打ちの和声は変化のあるパートに注目してください。和声進行がしっかり表現できると良いでしょう。特に気を付けなければならないのは1小節目のASax1とHrn4、5小節目のASax1とHrn1 です。該当の小節はセブンスの音がこの2パートのみですので、バランスが悪くなる可能性があります。
・この強奏部分はギリギリまで同じ音量にしてください。次の弱奏部分とのコントラストが表現の上で大切になります。
・一転して3・4小節と7・8小節はsolo中心の弱奏部分になります。弱奏を感じさせる必要はありますが、soloは貧弱に聴こえないようにしてください。Soloと記載されているパート以外にもBarSaxとGlockenはsoloと同等の音量が必要ですので気を付けましょう。
・これらのsoloパートと表打ちのBD、裏打ちのClの和声とSDという構造は強奏部分と変わりません。バランスのとり方に注意が必要です。
・4小節目3拍目裏からのPercのcrescはユニゾンのメロディに隠されてしまわないように気を付けてください。このcrescによって強奏部分のバランスを取り戻します。
・9小節と10小節目3拍目頭は弱奏部分と基本的に変わりません。変化があるのはsoloパートがduoに発展することとリズムが細かくなることです。この変化を表現したいのですが、duoの3度下のパートが同音量になるようしっかり演奏させてください。リズム部分ではAclがない場合、Clから補充した方が良いと思われます。バランス的にはFgも加えた上で他のClパートと調整してください。他の和声よりも若干強めがいいと思います。また、Trigleは音色を検討してください。ClとFgに消されないように気を付けましょう。
・10小節3拍目裏は突然のfをしっかり表現しましょう。16分音符の動きのパートはBの最終小節同様ゴチャゴチャしてしまいますので、一部8分音符3つで軽快な動きになるよう工夫すると良いでしょう。
・11小節目~のシンコペーションのリズムで追いかける形のパートですが、基本的にユニゾンです。音程に気を付けましょう。
・上記のシンコペーションの最後に入るパートですが、12小節目の3拍目だけ3声に分かれます。crescもありますので、3声に分かれて減衰する印象を与えないよう気を付けてください。ユニゾン部分の人数を絞るのも一つの方法だと思います。特に問題なのは12小節目3拍目頭です。半拍後にはHrn4・Trb2も加わりますが、拍の頭はTrp3しかB音がありません。これに対してC音は多数存在しますので調整が必要です。
・Dの2小節前はテンポが微妙に遅くなります。この部分の指揮は難しいと思いますが、音量も頂点になりますので、4拍目の打点後を大きく振って遅くしてください。
・この部分はB♭のコードを響かせたいのですが、B音が多数なのに対してD,Fの両音がかなり少なくなっています。バランスがとれているかどうかしっかり確認してください。
・Dの2小節前、ASaxとHrnは1拍目裏の4分音符から2声になります。スラーの最中ですがアクセントを付けたようなつもりで2つに分かれたことを強調しましょう。
・Dの1小節前のFlとCl2&3は最初から分割されています。下のパートは音が低いので、全音符の和音から抜け出すように強調してください。
☆D~E
※ここはかなり音が薄くなり、ユニゾンのメロディと木管のバスの動き、TrbとTubaによる和音の3つに分かれています。音が薄いだけに響きを豊かに保つ必要があり、Trbの役割は重要です。
・4小節目と8小節目のGlockenですが、高い音になるのはここだけです。堅めのマレットで浮き上がらせた方が良いと思われます。
・メロディは全てユニゾンです。音程は確実に合わせなければなりません。バランスが取れるなら、多少奏者を間引く形で確実に合わせてください。また小節の頭の音に注意してください。Trbは和声を担当していますが、メロディの小節の頭の音と同じ音を担当しているパートが必ず1つあります。それ以外のパートは1本だけで和声の一部分を担当することになります。各小節で響きを作れるようにバランス調整してください。
・4&7小節目はTrb・Tubaのパートは2分音符の動きになります。和声が進行していることがわかるように演奏させてください。
・7小節1拍目のTrb・Tuba no和声はC₇ですが、第3音のE音抜きで始まります。特にC音とG音は低くならないように気を付けてください。
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